芸能人の不倫疑惑で連日テレビが盛り上がっていたある日、私の家に一本の電話がかかってきました。貴重な休日にのんびりとソファーに寝転がり、惰眠をむさぼっていた私の、憩いのひと時をぶち壊した電話の相手は、従妹の旦那さんでした。
結婚式には参列していたものの、取り立てて付き合いがあったわけでもなく、年末年始に親戚の集まりで顔を合わすだけの相手からかかってきた電話に、私は既にその時点でトラブルの臭いをかぎ取っていました。電話口の旦那さんの声が、第一声から少々焦り気味に聞こえていたためです。とはいえその時点では、どこかの家で不幸があったのだろうか、というぼんやりとしたものでしかありませんでした。
儀礼的な挨拶の後、緊張感をもって次なる発言に耳を澄ませた私に、彼が発した言葉は『嫁に伝言を頼みたい』というものでした。特に付き合いもない従妹の旦那さんが、私の嫁に何を伝言をするのだろう、正直そう思わなくもなかったのですが、NOといえない典型的な日本人の私です。たじろぎながらも、口から出たのはどうぞの一言でした。受話器を左手で持ったまま、右手で電話が置いてあるチェストの引き出しを開けてメモ帳を用意するという一仕事をしながらだったので、私の声も焦った感じになったかもしれません。
『母が熱を出したので家に帰ってきてほしい』そんな旦那さんからの伝言を、一言一句違えず書ききって、私はまた違和感を覚えます。冷静になって考えてみるとまったく遅いくらいなのですが、その時は旦那さんの勢いに押され気味で、正常な判断力を失っていたのでしょう。用が済んだとばかりに電話を切ろうとする旦那さんを慌てて引き留め、質問を重ねて、私は従妹と旦那さんは喧嘩中であること、従妹が旦那さんに書置きを残して家を出ていったということを知りました。従妹はなぜか彼に嘘をつき、私の家に行くと伝えていたようでした。
旦那さんにはその場で従妹は我が家には来ていないと伝えたのですが、中途半端に伝言役を引き受けるようなことを言ってしまったので信じてもらえず、かばっているのではないかと疑いをかけられる羽目になりました。私にも反省する点はあるとはいえ、実に迷惑な話です。その後も何度か、旦那さんからの電話は我が家にかかってきました。従妹の携帯に電話をかけても通じない、腹いせのようなものだったのかもしれません。
そんなごたごたを見せられていたので、先日従妹の口から離婚したと聞いた時は驚かなかったのですが、音信不通になっている間、不倫相手の家に転がり込んでいたという事実を知った時には仰天しました。電話でのイメージから旦那さんの方に非があって、従妹が苦痛に耐え切れず逃げてしまったのだと勝手に思い込んでいたので余計にです。
旦那さんのギャンブル癖や姑との軋轢など、夫婦生活の不満がきっかけだったことは確かであるものの、家を飛び出したのは不倫相手の男性との生活を楽しむためだったという話を聞くにつけ、なんだかげっそりしてしまいました。不倫などテレビや本の中の話だと思っていたので、身近のよく知った人の口から、生々しい話を聞かされる羽目になるとは考えてもみなかったのです。
我が家に行くと嘘をついた件に関しては、ほどよく遠方でほどよく交流がなく、いい目くらましになりそうで、要するに都合が良かったからだそうです。迷惑料として焼肉をおごってもらいましたが、それぐらいのことでは許す気になれないというのが本当の所です。
そんな従妹は現在不倫相手とは別れたらしく、別の男性との出会いを探しているそうです。離婚するぐらい好きな相手ではなかったのかと尋ねると、あの時は熱かったけど不倫じゃなくなってしまったら急に冷めてしまったのだと返ってきて、ドラマみたいだねともう現実逃避するだけの私でした。